ルイス・ブニュエル『欲望のあいまいな対象』

30年遅れの映画日誌

 1984年8月23日水曜 晴れ
 ルイス・ブニュエル『欲望のあいまいな対象』

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 銀座 試写
 越境するブニュエルの闊達な遺作。
 一人の女を追いかけつづけるが自分のものにできない、テロに追われつづけるがいつも間一髪のところで逃れる――ブニュエルの自画像(?)めいた男の遍歴物語。

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 女をものにできないのもそのはず、映画では二人の女優が演じる。恋のかけひきは二重に紛糾して滑稽ですらある。テロリズムにたいするいくらか被害妄想めいた対象化も深遠だ。
 ラストシーン。麻の頭陀袋から次つぎと取り出される白い下着。そのなかから出てくる血まみれの裂けた一枚。それが縫いつくろわれるところで、映画は終わる。
 いかなる意味づけも拒絶して。
 「アンダルシアの犬」で始まったブニュエルの映画的人生もそのシーンによって閉じられた。
 その陰翳を解きほぐすために「ブニュエル試論」を書いた。

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