コバーンasコンチネンタル・オプ

2009.02.01   コバーンasコンチネンタル・オプ
 『デイン家の呪い』VHSを見つけてきて、初めて観る。
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 もちろん期待はしなかったけれど、やはりパッとしないところは、原作とどっこいどっこい。
 探偵のナレーションがついて、話の筋道はわかりやすくはなっている。
 だがそれだけである。
 ジェームズ・コバーンのコンチネンタル・オプ役に違和感がないかといえば、それはあるだろう。
 背の低い小太りの男に長身痩躯の役者が扮するのだから。
 けれど、映画では名前も変えてあるし、別物と思えばようろう。
 最近では、サミュエル・L・ジャクスンの「オプ」だってあったわけだし。
 主演が適役であるのかないのか、それ以前の問題のようだ。

 映画『デイン家の呪い』は、コバーンの他はさっぱり。
 未公開・ビデオ発売のみで消えてしまうのも仕方なしか。
 というのは、観る前からほぼだいたい予想のついたことで。とやかく文句をつけてもしょうがない。
 ただただコバーンの出るハメット映画を観たかっただけ。そこに尽きる。
 なぜかというと、ヴェンダース映画『ハメット』を観て以来、この主役にほんとに相応しいのはコバーンだけだろう、と想いつづけてきたせいかも。
 順序は逆になっている。

 たとえこの『デイン家の呪い』が、当時、すんなり公開されていたとしても、観に行かなかったんじゃないかな。
 ジョー・ゴアズ『ハメット』が翻訳されたのは、かなり後のことで、それを原作に使った奇妙なヨーロッパ映画『ハメット』の公開に合わせたわけだ。
 それ以前にも、リリアン・ヘルマン原作の『ジュリア ――ペンティメント』で、ジェイソン・ロバーツ演じるハメットが登場してはいた。
 しかし、あれは、インテリくさいハメットであり、要するに、書けなくなってからの「晩年の」イメージに沿ったものだ。
 つまりピンカートン探偵社時代のハメットの像はゴアズの小説『ハメット』に尽きる。
 ヴェンダースによる映画『ハメット』は原作とは似ても似つかぬシロモノだが、フレデリック・フォレスト演じるハメットだけは、奇跡的に探偵ハメットを彷彿させるのだ。
 フォレストの背丈がもう少し高ければね、という注文はつくけれど。
 と、そんな回路を経て、コバーン=ハメットのイメージはどんどん勝手に熟成されていったらしい。
 それが『デイン家の呪い』に逆流したんだが。
2009.11.18 
 このあいだ「コバーン as コンチネンタル・オプ」のことなんか書いておいたが、当の『デイン家の呪い』の新訳が登場した。
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 うちにある HPB の奥付は、75年になっているので、ともかく画期的な数十年ぶりの新装である。
 新発見はあるかな、と期待しよう。
 わたしがコバーン主演映画の VHS を所持しているくらいだから、モノは珍しくもないと思っていたところ、訳者後書によると、意外なことに、小鷹さんはまだ未見なのだという。
 まあ、有り難がるほど大した作品ではないんだけれど。
 やはり、ヒロイン役の女優次第のフィルムだったというか。
 78年だから、フェイ・ダナウェイは無理でも、キャンディス・バーゲンとか……。
 そういえば、『北米探偵小説論』で、この作品について何を書いていたのだっけ。
 気になった。
 自分の本を巻末索引をたよりに調べるってのもヘンな話だが、書いたことをかいもく憶えていないのだから仕方がない。
 しかし、言及は、なんと一箇所しかなかった。
 草稿段階では、たしかに、少しは書いていたはずなんだが、最終的には削ってしまったようだ。
 それほど面白くなかったんだろう。
 『デイン家の呪い』がではなく、それについて自分の書いた内容が……。
 それもこれも、要するに、どうでもいいことだな。

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