『バニシング・ポイント』

2010.01.02   不死の映画館①
 首都の外れの、観光でにぎわう古寺のすぐ近く。
 さる公立学校が管理する農業用地の広大な敷地の片隅にその映画館はある。
 常設館ではないから、それらしき看板などいっさいない。
 上映する番組のスケジュールだって案内があったためしがない。
 けれども、そこへ行けば必ず、他では観ることのできない作品と出会えるはずだ。
 こんな贅沢なシアターは当節、ちょっと見つからない。
 地図にも出ていないし、ファンたちの話題にのぼったこともないだろう。
 厩舎にしか見えないから、たいていの人は気づかずにとおり過ぎていく。
 ある時は、エリッヒ・フォン・シュトロハイム『グリード』の四時間ヴァージョンを観たし、
また、ある時は、ライナー・ウェルナー・ファスビンダー『ベルリン・アレクサンダー広場』を十四話連続で鑑賞した。
 フィルムがいつも回っている場所。
 それが不死の映画館だ。
 これから綴るのは、そこで観た珍奇な作品についての感想だ。
 第一回の鑑賞記は、『バニシング・ポイント』
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 なんだ、珍しくもないといわれそうな70年代的定番である。
 DVDだっていくらでも出回っている。……んだが。
 さて、お立ち合い。どうもこちらで公開されたのは99分ヴァージョンのみらしい。
 例によってスペシャル・エディションのディスクも発売されているが、特典映像の付録がごっちゃりとついても、本編は、やっぱり99分のようだ。
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 ところが、ディレクターズ・カットとか大げさなことはいわなくても、『バニシング・ポイント』には、106分ヴァージョンがある。
 どこが違うかというと――。
 シャーロット・ランプリングが出ているか、いないかの違いなんである。
 IMDbで調べると、彼女はヒッチハイカーの役で、「Scene Deleted」となっている。
 カットされてしまったのだ。それゆえ allcinema ONLINE などでは、出演作リストに入っていない。
 けれども「まぼろし」の出演シーンは、たしかに存在しているのだ。
 一時間四十六分の映画の、一時間三十分あたり。そろそろ大詰めに近いところ。
 ヒーローが道の傍で拾うスウィート・ヒッチハイカー
 ランプリングは「あんたの名前はコワルスキーなのね」とかの科白。
 わずか五、六分の車内シーン、顔のクローズアップのみ。
 このエピソードは他の部分とつながりがないので、カットしてしまっても話は通るわけだ。
 ヒーローが爆発する直前に垣間見た幻影のようにも受け取れるシーンなのだ。
 じっさい、タイトルバックに「co-starring CHARLOTTE RAMPLING」の文字を観た時、わが目を疑ってしまった。
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 これもまた、忘却の彼方に置き忘れてきた事柄のひとつなのかと。
 で、ひたすら彼女の登場を期待しつつ観た。
 しかし何となく憶えのある映像の連続のうち、いくら待っても彼女は現われない。
 あきらめかけた。そして、映画がほとんどもう終わりかけてきた時間になっての登場だった。
 初めて観るシーンだ。
 納得した。
 なるほど、流れが、ここだけ異なっている。一直線の破滅への道が、ここでゆったりと停滞している。
 編集的にはカットして正解なんだが。やはり短縮ヴァージョンで満足していたのは不幸であった。

 夢のなかのような映画館で観るフィルムは不死なのだ。

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