『北米探偵小説論』注釈 映画を探して03(2004.01.01の日誌より)
このところ、『マイ・バック・ペイジズ』を、64年のボブ・ディランのオリジナル、ザ・バーズのポップ・アレンジ、92年のニール・ヤング/ジョージ・ハリスン/エリック・クラプトン/ロジャー・マッギン/トム・ペティ/ディランによるライヴ、真心ブラザーズの日本語版、その四種で、とっかえひっかえ聴いている。
かくて日々はめくられていく。
かくて今年も暮れ行く……。
Ah,but I was so much older then
I’m younger than that now.
ディランの新作映画『マスクト・アンド・アノニマス』は、ラテンアメリカのどこかにあるような後進独裁国で起こる寓話めいた話……らしい。ディラン演じる初老のロックシンガー、伝説のミュージシャンが長い牢獄生活から放たれ、チャリティコンサートの旅に出る。多民族が混交する第三世界のオン・ザ・ロード、彼を政治目的に利用せんとするさまざまな人物が入り乱れる……らしい。
二度も「らしい」を使ったのは、観る機会がめぐってきそうもないからだ。どうもこれはカルト・ムーヴィっぽさが強くて、日本では公開されないようだ。DVDもまだ出ていない。
話のアウトラインを聞くと、デニス・ホッパーが昔つくった問題作『ラストムービー』みたいな映画を連想してしまう。つまり有り難がるほど面白い作品ではないだろうということ。
ジェシカ・ラング、ペネロペ・クロス、ジェフ・ブリッジス、ジョン・グッドマン、ミッキー・ローク、アンジェラ・バセット、ヴァル・キルマーなど、客を呼べるキャスティングではあるんだが。
https://atb66.blog.ss-blog.jp/2016-10-14
ディランの映画出演はやっぱり、ペキンパー・フィルム『ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯』の一場面に尽きるのだろうか。故ジェイムズ・コバーンの保安官とディラン(エイリアスという役名)が対面する、あの酒場のシーン。――おまえは何者なんだ、と詰問する保安官。エイリアスはどぎまぎして答える。「そいつはいい質問だ」と。
ペキンパーについて書かれた本によると、このシーンはまったくシナリオなしのぶっつけ本番でテイクされたという。二人は地で「演じた」のだ。おまえは何者なんだと問われて、そいつはいい質問だと受けるディランのエイリアス。それは何にもましてディラノロジカルなリアクションだった。マスクト・アンド・アノニマスな――。
映画のほうは、まあ、あきらめることにしてCDアルバムを繰り返し聴く。サウンドトラック盤だということは忘れることにして。アルバムとしてだけ享受すると、ディランの曲を多様なアーティストが饗宴するという意味で、十年前の『ザ・ボブ・ディラン/ソングブック』――ジョニー・キャシュの『ウォンテッド・マン』が最高だ――にいくらか似ている。それから『30th アニヴァサリー・コンサート・セレブレイション』にも。違うのは、参加アーティスト(というより収録曲目か)が英語圏にかたまっていないところだ。
ただグレイトフル・デッドのところでは、どうしても黄昏のロードムーヴィといった色調の安手の映像美なんかを思い浮かべてしまう。
この後ろ向きは、前向きなのかね。
はて?