30年遅れの映画日誌。二年目。 映画を観るためには映画館に出かけるしかなかった時代に。
ところがこの年度の手帖だけ消えていて……。日付は欠損。パートカラーで失礼。
べつに多忙だったわけでもないのに余白だらけ。本数も異常に低下した1980年。
この年、おそらく50本にも達していないのでは……。
スティーヴ・マックィーン『トム・ホーン』
マックィーン遺作『ハンター』はもう少し後に観る。
何回目かのスタンリー・キューブリック『博士の異常な愛情』『時計じかけのオレンジ』
記憶に引っかかってくるのは、これくらい。
低迷はつづく。翌年、翌々年は、執筆生活のあおりで、やはり百本にとどかず。
父親が死んだのが、三月。
危ないと伝えられて京都にもどった。医師はなにやら不明快なことしか言ってくれない。今日明日の心構えはしておいてほしいが、あんがい長引くかもしれないなどと。
他のことはひとまずおくとしても、かかった医者に関してはとことん運のない人だった。最後までヤブに当たったらしい……。
臨終に立ち会うことはできた。大量の濁った血をごぼりと吐いて、それが絶息の瞬間だった。喉につかえてくる痰や血を自力で取り除けられなくなっていた。命が尽きたので、下水管から溢れる汚水みたいに血痰が飛び出してきたのだ。
最初に降りてきたのは「やっと死んでくれた」という想いだった。64歳だったが、とうに壊死して久しかった。じっさいの死は目に見えるゴールだったにすぎない。
とはいえ、現実にはそうも簡単に片づかないことばかりで……。