崔洋一『十階のモスキート』

30年遅れの映画日誌。映画を観るためには映画館に出かけるしかなかった時代の話。
 
 1983年2月12日土曜 晴れ
 崔洋一『十階のモスキート』
 竹橋 科学技術館サイエンスホール

 PIA CINEMA BOUTIQUE ニューディレクターズ特集
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 カリスマ崔のデビュー作。現職の不良サツ官による強盗事件をあつかっているのはケシカラン、ということでお蔵入りになりかけた。公開予定未定のプレミア上映だった。
 『水のないプール』では、風呂の中のスカシッ屁みたいに不完全燃焼だった内田裕也の仏頂面が今回は全面爆裂。
 ただし、強盗に決起するまでの、博打やコンピュータ・ゲームにはまるおちこぼれ警官のいじましい日常が冴えている。
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 崔監督とは数ヵ月後、『日本読書新聞』の対談で会うことになった。媒体の党派性もあって、最初は警戒されたのか、目つきも愛想もずいぶんと硬かった。映画の公開日時はようやく決まっていた。

 ゴールデン街の某店の二階でビールを飲みながら、ぐっちゃらぐっちゃらと喋った。対談記事は、「一コマのメッセージ」として83年7月18日号に掲載された。
http://atb66.blog.so-net.ne.jp/2014-10-29

 梁石日『タクシー・ドライバー(狂躁曲)』映画化の想いも、このとき聞いた。原作者の人間的魅力について「あのオッサンは……」と崔さんが言いかけたと
ころで二人とも思わず笑ってしまった。雰囲気的にはそれで充分だったが、記事を読んだ人はわかりにくかったかもしれない。

 なおこの映画化が『月はどっちに出ている』として実現したのは十年後。

 話は一回りして、そろそろお開きというところ、えらく背の高い男がヌッと入ってきて「松田です」と自己紹介した。なるほど、ついこないだ『家族ゲーム』で新境地を見せてくれたスタアのシャイな素顔がそこにあった。
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